- トップページ
- 令和5年のトピックス
- シリーズ企画 自然と生きる⑩「白山さんとの縁に感謝し、山の恵みを御馳走に変える」
トピックス
トピックスの詳細
シリーズ企画 自然と生きる⑩
「白山さんとの縁に感謝し、山の恵みを御馳走に変える」
−和田屋(わたや)・和田英夫さん、智子(さとこ)さんを訪ねて−
当社とご縁のある中から、自然を敬い、慈しみながら、日々の生業を営む方々の姿をご紹介します。
和田屋(白山市三宮町)
藩政期の慶応元(1865)年に創業し、昭和25年に白山比咩神社の境内にある現在地へ移転。鮎などの川魚や旬の山菜を主としたメニューを提供し、宿泊もできる料理旅館として営業しています。白山麓の恵みを活かした料理の数々は、ミシュランガイドの北陸版でも星を獲得するなど高い評価を受け、全国や海外からもお客が訪れています。
(写真)山麓の自然も取り入れた和田屋の玄関前に立つ和田英夫さんと智子さん。
神社とともに重ねた歴史
「元々は現在の鶴来今町あたりで営業しておりました。手取川沿いで何度も水害に遭っていたのを、当時の白山さんの宮司さんの計らいで、この場所に移ってきたんですよ」と店の移転のいきさつを明かしてくれたのは、和田屋五代目当主の和田英夫さんです。
創業時は街道を行き交う人々に惣菜を販売していた和田屋は、戦後になって白山比咩神社の境内に移ると、地物の川魚や山菜を使った料理を提供する山の料理店として、参拝客を中心に利用されるようになりました。
「白山さんのお隣りで営業できたからこそ、当店は長い間のご愛顧をいただけています」と感謝する英夫さんは、毎月の「おついたちまいり」を50年近く続けています。能楽の謡を習い修めていることから、平成20年の御鎮座二千百年式年大祭では、本殿での能「羽衣」の奉納にも参加しました。当時のことを「本職の能楽師の方でも、めったにできない経験をさせていただけて感激でした」と振り返ります。
英夫さんの長女で、和田屋六代目の女将として現場に立つ和田智子さんも、「お店で何か出来事があるたびに、白山さんにお参りして、ご報告とお礼をさせていただいています」と打ち明けます。幼い頃は白山さんへの初詣が楽しみだったという智子さんは、案内板やお品書きをすべて手書きするなど、お客を温かく迎える店づくりに腐心しています。「全国から崇敬を集める神社の境内でお店を営めるのは、本当にありがたいこと」と2人がしみじみ語るように、和田屋は神社と白山のふところで、数多くのお客をもてなしてきました。
(左)御鎮座二千百年式年大祭で能舞を奉納する英夫さん。(平成20年)
(右)白山比咩神社の駐車場に面する和田屋の看板。北参道の鳥居が目と鼻の先です。
伏流水が生む山の美味
そんな和田屋の料理とおもてなしを支えるのが、敷地内の井戸から引いている白山の伏流水です。和田屋の井戸水は「やや硬水」となっていて、硬水は一般的にだしが出にくいとされていますが、この水でゆっくりと時間をかけて、しっかりとした旨味のだしをとることで、伏流水の味わいも活かしています。智子さんは「近頃は食材として金沢や美川の海の幸なども取り入れていますが、このだしが和田屋の料理の芯をおさえてくれます」と白山の水からつくる味に自信をのぞかせます。
境内に移転後の和田屋の歴史を懐かしく振り返った英夫さん。
白山麓の自然の素晴らしさについて語ってくれた智子さん。
伏流水の井戸水は館内のお風呂に使われるほか、店の前にある庭や中庭前の水場にも流れ、池にはメダカやホタルなど水辺の生き物たちも姿を見せます。英夫さんが「昔は畑や田んぼが広がっていた場所を少しずつ整えていったんです」と明かす庭は、客室から眺めると、四季折々の自然の彩りが癒しの絶景となって広がっています。
「全国のどの川よりも美味しいと思います」と英夫さんが太鼓判を押す手取川の鮎に、豊かな土で育った山菜や野菜といった食材も、もちろん白山からの賜物です。「お客様が『緑に囲まれて食べると、お料理も美味しくなるね』とおっしゃるんですよ」と喜ぶのは智子さん。和田屋でのひとときは、山の自然を丸ごと味わう楽しみにあふれています。
(左)英夫さんや孫で七代目の壮央(たけおう)社長も焼き上げる鮎。
(中)目と舌で味わえる白山麓の旬の料理が魅力です。
(右)各客室には昔ながらの囲炉裏があります。
白山麓の魅力を届けたい
近年の和田屋は白山麓の魅力発信にも取り組み、企業やアーティストと協力して、杉や黒文字などの木の香りを抽出したフレグランスの開発、山中で料理を振る舞う「森のレストラン」の営業といった試みを展開しています。智子さんはこうしたコラボレーションについて、「私たちが気付いていなかった白山麓の良さを協力先の方々に教えていただく機会にもなっています」と意欲的です。
折しも、今年5月に白山市全域がユネスコの世界ジオパークに認定され、白山麓の自然に国内外からの注目が集まろうとしています。智子さんは「海外からもたくさんのお客様に来ていただけそうです」と期待し、英夫さんは「白山さんはジオパークのちょうど真ん中で、金沢にも近い文化の交流点です。この地域をさらに盛り上げるきっかけとして、私たちも微力を尽くしていきたいですね」と未来に思いを馳せていました。白山麓の自然と文化を素朴で洗練された料理とともに届ける和田屋の歩みは、白山比咩神社のかたわらでこれからも続いていきます。
(左)店頭でも販売している和田屋オリジナルのフレグランス「wataya incense」。白山麓に生える杉や黒文字の木を蒸留し、白檀の香りも加えています。
(右)和田屋の庭は豊かな水辺に自然の草花も配した野趣あふれる情景が見もの。背後の獅子吼高原の緑が借景となっています。
記・中道大介(高桑美術印刷)
- 自然と生きる⑨ 「創業者から積み重ねたつながりでまちと一体の成長を目指す」 (令和5年1月)
- 自然と生きる⑧ 「創業者から積み重ねたつながりでまちと一体の成長を目指す」 (令和4年7月)
- 自然と生きる⑦ 「ジオパークの恵みと資源を白山市民の誇りにしたい」 (令和4年1月)
- 自然と生きる⑥ 「伝統の湯は白山の賜物 自然の癒しを地域の活力に」 (令和3年7月)
- 自然と生きる⑤ 「神と自然に感謝を捧げて恵みの水を分かち合う」 (令和3年1月)
- 自然と生きる④ 「白山の恵みが築いた礎を基に地域を支える製品をつくる」 (令和2年7月)
- 自然と生きる③ 「充実のものづくりを支える白山の自然に感謝」 (令和2年1月)
- 自然と生きる② 「神仏と水の恵みに感謝し地域に尽くす」 (令和元年7月)
- 自然と生きる① 「後世につなぐ木と太鼓のいのち」 (平成31年1月)