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シリーズ企画 自然と生きる① 「後世につなぐ木と太鼓のいのち」
当社とご縁のある中から、自然を敬い、慈しみながら、日々の生業を営む方々の姿をご紹介します。
浅野太鼓楽器店(白山市福留町)
和太鼓を中心に、各種太鼓や関連商品の製造・販売を手掛ける企業。創業四百年を超える老舗として、日本の太鼓文化の継承と発展にも尽力し、世界各地の太鼓を展示する「太鼓の里体験学習館」の運営や太鼓イベントのプロデュース、海外普及活動など、さまざまな取り組みを展開しています。
神様に捧げる太鼓作り
12月9日は、林業関係者や大工など木にまつわる仕事をする人々にとって、山と木の神様に木の恵みに対する感謝を捧げる「山まつり」の日として知られます。職人の手仕事による和太鼓などを製造・販売する浅野太鼓楽器店では、毎年この日に従業員全員で白山比咩神社に参拝することを恒例にしてきました。
浅野太鼓の製品はケヤキなどの天然木を主な材料にしています。創業から四百年あまりの歴史は、豊かな木の資源に支えられてきた歩みと言えるでしょう。浅野昭利代表取締役も「山まつり」で会社を挙げての参拝を、「昔から続けてきたことでもあり、太鼓を作る企業として当然の義務だと考えています。私たちにとっては、1年で何よりも重要な日です」と言い切ります。
神社は浅野太鼓の事業にとっても関わりが深い存在です。明治神宮など全国の神社から依頼を受けて、お祭りや日々のおつとめ、神楽の演奏などの際に鳴らされる太鼓の数々を納めてきました。白山比咩神社に奉納した左右一対の鼉太鼓(だだいこ)は、漆と金箔で描いた巴模様や龍と鳳凰の彫刻など、装飾全体に吉祥を暗示する意匠を盛り込んでいます。
神社における太鼓は儀式に際して、神様を迎え、もてなし、送り出す役割があるため、叩いたときの音色や響きには、特に徹底してこだわってきたといいます。神社に納める太鼓について、「神道の文化様式にのっとったデザインの工夫もさることながら、それ以上に大切なのは、楽器としての品質です。鳴らすことで周囲を凛とした空気に変える。そんな音づくりを目指しています」と力強く語る浅野取締役の言葉には、自社の太鼓作りへの揺るぎない信念が感じられます。
(左)太鼓作りは数多くの工程の積み重ねです。胴の文字も職人の手作業で一つひとつ彫り込んでいきます。
(中)昭和55年に明治神宮に奉納した大太鼓。宮司が毎年大晦日の深夜、午前0時ぴったりに叩くことで、新年の幕開けを告げます。
(右)昨年12月9日の「山まつり」も従業員一同で参拝しました。祈祷では浅野太鼓製の太鼓が打ち鳴らされました。
木の生命を太鼓に引き継ぐ
ケヤキ林を自ら育てる
そんな浅野太鼓を悩ませているのが、太鼓の材料にしてきたケヤキの減少です。天然木の丸太をくり抜いて胴にする太鼓作りには、数百年の樹齢を重ねた木が必要となります。しかし、ケヤキは建築用材や家具材など木材としての需要が高く、国内では、良質なケヤキ材の確保が年を追うごとに難しくなってきています。
そこで浅野太鼓は平成15年から、能登半島の穴水町にある里山でケヤキの植林活動を開始しました。毎年3千本ずつの苗木を植えて、平成24年には目標である3万本の植林を達成し、その後は従業員たちが定期的に下草刈りや枝打ちなどの手入れを続けながら、ケヤキ林を育てています。
この植林活動は「夢の木植林計画」と銘打たれています。ケヤキの苗木が太鼓の材料になる大きさに育つまでには、約三百年の歳月がかかります。結果を知ることができない壮大な計画に乗り出した理由について、浅野取締役の答えははっきりしています。「浅野太鼓はこれまで四百年間、ケヤキの太鼓を作ってきました。三百年後も同じように、ケヤキで太鼓を作り続けていたいのです」。
木をくり抜いた胴の内部を丁寧に削り、聞き手の心揺さぶる響きを生み出します。
数百年後に思いを託す
浅野取締役は昭和63年の「太鼓の里資料館(現・太鼓の里体験学習館)」開設に始まり、太鼓イベントの主催・協賛、関連書籍の企画・出版など、太鼓文化の普及と発展を目指す活動を続けてきました。それらの活動も祖先から引き継いできた太鼓作りを後の世代に託そうとする思いが原動力の1つになっています。
太鼓作りの意義についても、「数百年生きた木が太鼓になれば、さらに何百年も使えます。木の生命を末永く残し続けることになります」と、自然の営みと調和した仕事のあり方を誇りとします。浅野太鼓にとって木と向き合うことは、企業の思いや願いを未来へとつなぐ手段でもあるのです。
(左)前身から四半世紀の歴史を数える「白山国際太鼓エクスタジア」をはじめ、数多くの太鼓イベントに携わっています。
(右)太鼓職人たち自らの手で植林したケヤキ林。その後の木々の手入れにも、熱心に取り組んでいます。