白山を開いた泰澄(たいちょう)とおろちの話です。昔、白山の山の上にはたくさんのおろちが棲んでいました。その数は、三千匹ともいわれていました。おろちは、ふもとの村々まで下りてきて畑を荒らしたり家畜を襲うなどの悪事を働いていました。おろちの悪行を知った泰澄は、すべてのおろちを集めてさとしました。
ところが、どうしても言うことを聞かないおろちが千匹いたので、泰澄はこの千匹を一カ所に埋めて、その上にたくさんの石を積み上げました。これが弥陀ヶ原の近くにある蛇塚(じゃづか)です。
残った二千匹のうち、千匹には刈込池に棲むように言いつけました。そして池の近くの大岩の上に大きな剣を立て、その影が水に映るようにしました。鉄に触れて体が腐るのを恐れたおろちは、池から出てこなくなりました。
次に残った千匹には頂上に近い池に棲むように言いつけ、すべてのおろちが池に入ると、その上から万年雪でふたをしてしまいました。そして雪がとけて蛇が池から出てきそうな時には、池の上にある「御宝庫(おたからぐら)」が崩れ落ちて池のふたとなるようにしたということです。この池を千蛇ヶ池と呼んで、今でも解けることのない雪の下におろちがいるといわれています。