今からおよそ一三〇〇年前。白山の山頂に初めて登ったのが、越前(現在の福井県)の偉い僧で泰澄(たいちょう)という人です。
泰澄は白山麓の舟岡山にある「妙法の窟」にこもって修行し、次に手取川の「安久濤(あくど)の淵」で一心にお祈りをしていました。すると、白い馬に乗った白山比咩大神が現われ、泰澄に「私は白山に住んでいる女神です。私の本当の姿を見たいと思うなら、白山の頂上へおいでなさい」と告げられました。
泰澄は川を渡り、岩を登り、木の根・草の根を踏み分けてそれまで誰も登ったことがなかった白山に登り、頂上付近の「転法輪(てんぽうりん)の窟」で行を重ねました。
そこへ、翠ヶ池のほとりから九つの頭を持った竜がおどり出してきました。泰澄は「このような恐ろしい竜が白山の神さまの本当の姿とは思えない。これは仮の姿だ。真のお姿をお見せください」と念じると、竜は十一面観世音菩薩に姿を変えました。
泰澄は、「これぞ、まことの白山の神様のお姿にちがいない、ありがたい」と伏して拝まれました。そして、目に焼き付けた十一面観音菩薩を木像にきざまれて、白山の頂上にお祀りしたということです。
翠ヶ池は、別の名を「仏ヶ池」とも言い、岐阜県の方では、この池の水を霊水として多くの人々が壷に入れて持ち帰り、利用していました。