
神道講話441号「神山清浄」
◆ はじめに
古来より神山・巨樹・巨石などは神様が宿る気高き存在として、神奈備山(かんなびやま)・神籬(ひもろぎ)・磐境(いわさか)と周囲から隔絶された聖域として守られてきました。
ことに富士山・立山・白山は江戸期より日本の三霊山として仰がれ親しまれ、橘南谿がこれを三霊山と称し、池大雅が絵画の中で広めてきたものであります。
敬虔な祈りによって守られ、敬われている霊峰は分水嶺であり、生きとし生ける水の親神様として人々から慕われています。特に白山は石川県の手取川が加賀平野を、福井県の九頭竜川が越前平野、富山県の庄川が砺波平野として大地を潤し、日本海にそそいでおり、岐阜県に流れる長良川が濃尾平野を潤して太平洋へと注がれているのであります。
◆ 三霊山の連携
昨年11月、日本三霊山と称される富士山・立山・白山の信仰の拠点となる三神社、富士山本宮浅間大社・雄山神社峰本社・白山比咩神社の宮司が当社に集い、意見交換を行いました。
この会合の開催は、令和5年1月に静岡・富山・石川の三県の知事が日本三霊山の活用による地域振興と交流拡大を図ることを目的とした連携・協力に関する協定を締結したことが契機であり、「行政の連携がとられているのに、三山をお護りする神社が、お互いのことを知らないのではいけない」と呼びかけて実現したのであります。
それぞれの登拝者の推移や、山での職員の勤務形態・物資の運搬・ゴミ処理・トイレの問題など各社の情報を共有し、今後も積極的に協力し合うことで合意したわけでありますが、将来的には、霊山をお護りされている全国の神社が集まり、信仰のあり方や課題にについて話し合う機会が得られればと思う次第であります。
◆ 信仰なき観光
近年、日本を訪れるインバウンドが増加し、全国的に外国人観光客が押し寄せています。コロナ禍で打撃を受けた観光業にとっては好機でありますが、あちこちで旅行者のマナー違反による観光公害が不安視されています。
富士山では、外国人観光客が著しく増加しており、弾丸登山や軽装での危険な登山、深刻なごみ問題に悩まされているといいます。また、問題は登山だけでなく、富士山の写真を撮るためにコンビニエンスストアに1日で最大1000人の外国人が押し寄せ、危険な道路横断・車道での撮影・無断駐車など、地域住民の生活環境にも弊害をもたらしています。
観光庁の調査によると、石川県では令和六年の外国人観光客の宿泊者数が前年の約2倍から3倍に増えているといいいます。金沢市民の台所といわれた近江町市場では、外国人観光客が海産物や串焼きを手に持って食べ歩き、人と人とがぶつかって相手の服を汚したり、こぼした食べ物で道路を汚すなどの問題があり、観光客による想定以上の混雑が地元離れを加速させているのであります。
世界遺産の合掌造り集落がある岐阜県白川郷では、年間200万人の訪日客が訪れ、住民の生活空間に観光客が侵入するトラブルが起こる中、生活・環境・文化に負荷を掛けないように配慮する「レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)」を提唱しており、住民の生活を尊重した振る舞いを呼びかけているといいます。
◆ むすび
静岡・富山・石川の三県知事が集まる三霊山サミットは、昨年8月に石川県にて開催を予定されていましたが、台風により延期となり、今年時期を見て改めて開催する予定とのことです。
白山は登る山でもあり、眺める山でもあります。昔の人は遠くから白山を眺め、それぞれの生業の基準としてきました。農家の人は白山に雲が掛かると水の恵みを受けることができ、漁師は白山を見て方角を確認し航路の目印として信仰されていました。
昨今の訪日観光客に限らず、信仰の山である白山を観光の場所として捉えられることは、大変危惧しなければならないことであります。
霊峰白山は畏敬の山であり畏怖の山であることを忘れてはなりません。
『霊山を穢すな』
宗教的に重要な意味を持つ聖地には、それぞれのマナーがあり、白山には白山のマナーがあります。あなたが来てから白山が汚くなったと言われないように心がけましょう。