神道講話440号「恩」
◆ はじめに
今年は、終戦80年を迎えました。
昭和20年8月15日の終戦の「詔勅」は『(前文)…耐え難きを耐え、忍び難きを忍び…(後文)』と申されました。
当時の昭和天皇陛下の心情は、いかがばかりかと察するに余りあり、お亡くなりになられた御英霊のお気持ちは日本国家の存続、日本国及び日本人の弥栄を祈念し、親・子・孫の安寧を願い、尊き御命を献げられたその気持を忘れてはなりません。
総人口のうち、65歳以上の人口が21%を超える「超高齢化社会」をすでに迎えている我が国であっても、国民の大多数が戦争を知らない世代になりました。
戦後80年も経ると遺族も高齢化し、靖國神社、護國神社の参拝も少なくなって参りましたが、この節目の年こそご先祖を思い、慈しみの心を以って参拝したいものであります。
戦後60年の時に製作された北野武主演・倉本聡作の映画『歸國』の一節に、今の政治・経済・教育・文化を見つめて「こんな世を造る為に吾々は尊い命を捧げたのか」とありますが、飽食の時代を迎えた今日を見れば、「何とも嘆かわしい世の中になったものだ」と反省しきりであります。
かつて「明治は遠くなりにけり」と詠まれましたが、今や昭和どころか平成さえ遠ざかりつつあります。 戦争の記憶が人々の心から遠ざかることのないよう祈るばかりであります。
◆ 台湾の恩
中華民国は、中国国内の内戦の激化によって、大陸から追われて台湾に移ったのでありますが、長年に亘って戒厳令が敷かれていて、軍事施設の入口には衛兵が立っており、いかめしく警戒をしておりますが、戦後の日本統治にあたり、蒋介石総統は論語の「怨(うらみ)に報(むく)いるに徳を以てす」の如く、200億ドル(当時のレートは1ドル360円)にのぼる日本に対する賠償金を放棄され、日本の分割占領統治を強く主張したソ連などの占領政策(北海道・東北がソ連、本州中央がアメリカ、4国が中華民国・西日本がイギリス ※諸説あり)を排除して、天皇制護持を支持された事など、その御偉業に対して、心から感謝のまことを捧げる次第であります。
そして、去る14年前の東日本大震災、また、昨年の能登半島地震に於いて、各国から多くの支援・援助が寄せられましたが、その中で飛び抜けての最高額は中華民国、いわゆる台湾であります。
中国の故事に「受けた恩(おん)は石に刻み、掛けた情(なさけ)は水に流せ」というのがありますが、昭和57年4月6日は、蒋介石総統の七回忌の祥月命日にあたりますので、私共神道人は、神社音楽協会の多静子先生提唱により、当社を始め、明治神宮・靖国神社などの職員有志が台湾の台北郊外にある慈湖の蒋介石総統の墓前で「浦安の舞」を奉奏致しました。
この企画は、終戦にあたり日本が分割統治されかかった時、蒋介石総統は分割統治に反対され、今のような治政になりましたが、私たちは蒋介石総統のご恩に対し、感謝の誠を捧げるものであります。
◆ むすび
自今、多額の支援に対し、ご恩を忘れず感謝の念を以て、地震被害や台風などの風水害、また隣国と、台湾の現状を鑑み、心からなる平和外交を望むものであります。
天皇陛下は、日夜「国(くに)安(やす)かれ、民(たみ)安(やす)かれ」と祈り、世界の平和・日本国の安寧を宮中三殿に拝し奉られております。
戦後80年の節目にあたり、各県の護國神社、そして東京九段の靖國神社に祀られております御英霊のご恩を忘れずに感謝のまことを捧げ、戦争が2度と起きないよう、国民こぞってお参りを致しましょう。