![神道講話](images/main_image.jpg)
神道講話431号「やまのぼり」
◆ はじめに
今年も白山夏山のシーズンを迎えました。霊峰白山は5月1日から10月15日まで室堂で宿泊ができます。
5月1日から6月30日までが春山(素泊り)そして、夏山の7月1日から8月31日までの2ヶ月間は神職が常駐します。
9月1日から10月15日までが秋山と区別し、7月から10月までは夕食・朝食、そしてお弁当の提供も行っております。
室堂の宿泊定員は、450名(感染対策につき)、雷鳥荘が最大21名で、予約制をとっております。
(詳しくは白山観光協会へお問合せください)
さて、登山は登り口(石川県側では別当出合)から一歩一歩汗を流しながら頂上を目指しますが、「やまのぼり」とは、ただ単に頂上を目指すだけでは意味がありません。
その山の特徴や自然を観察し、清々しい気持ちで山道を楽しみ、時には一服しておむすびを食べ、鳥のさえずり、昆虫に目をやり、樹木は山の標高につれ、杉の木が森トドマツ(オオシラビソ)からやがて這松(ハイマツ)やナナカマドに変わる高山帯特有の景色など、そしてその木々から出された綺麗な酸素いっぱいの空気によって心身共に有り難さを感じ、せせらぎに喉を潤し、多くの高山植物に心を癒やされ、ホタルブクロ、キヌガサソウの白、リュウキンカ、ミヤマキンバイの黄、コイワカガミの薄桃色、イワキキョウの紫、クロユリの濃い紫など、また小さなゴゼンタチバナ、コケモモから大きなニッコウキスゲ、クルマユリ、そしてコバイケイソウなどなど。
この大自然の中に佇めば、自分もこの大自然の中の一員であることを五感でとらえ、生かされて生きている今を自覚する事ができます。
その感動を忘れる事なく、楽しく、無事に下山し、帰宅してはじめて「やまのぼり」は完結するのです。つまり「やまのぼり」とは、常に無事に帰ってくる事を目的とします。
◆ あとつぎ
人々の生活も同じで、先般、入院を余儀なくする事になった時、担当医師に入院をご遠慮申し上げた所「あなたの今すべき事は、何ですか? 仕事よりもまず自分の体調を整え、後継者をつくり育てる事ですよ」と忠告されました。
まさに人生も「やまのぼり」と同じであります。一生懸命仕事をし、昇り詰めてもそれを後任につなぐ事が大事なのです。
今まで先人が築きあげてきた信頼・信仰・歴史をどうやって後世に継いで行くか。神社も会社も全ての組織は、いかに後継ぎにつないで行くかが命題なのであります。
去る令和4年10月に崇敬者の方が1冊の本を出版なさいました。「託す勇気 託される覚悟」と題した著書で、創業者の父(故人)、社長をゆずり相談役としての自分、そして社長役を任せた長男、それに会社を守ってくれた社員、家族、取引先、お客様、全て係われる人々に感謝の気持ちを伝える書物でありました。
また、「経営者がもっとも大切にしなければならない事業経営とは健全に50年、100年と事業を継承することであり、人づくりをすることが経営者の第一の責任である」と述べられています。
まさに「やまのぼり」 と同じです。
朝のテレビドラマのひとコマに女性がパイロットになるシーンがありましたが、飛行機の操縦訓練も同じで、飛び立つ訓練よりも着陸の訓練の方が難しいのであり、無事にソフトランディングで着陸する事により飛行を成しとげたということになります。
◆ むすび
人生のやまのぼりは家業を継ぐことも家系を継ぐこともみな「受け継ぎ来たる浦安の国」と喜び、「敬国」「敬神」の心を基本として過去を顧みて、今を一生懸命に生き、生かされて生きていることを自覚し、別けへだてなき大自然の恵みに感謝し、今一度深呼吸をして自然に触れ合いませんか。
去る5月24日、白山手取川ジオパークが世界ジオパークに認定されました。
奥宮境内地はもとより白山山頂から手取川を流れ日本海に至る美川の河口まで実に標高差で2700m、直線距離で約70km。その急な傾斜の中で刻まれた地質と地形、恐竜や植物・哺乳類などの多種多様な化石、そして連綿と受け継がれてきた山岳信仰「白山信仰」は、自然の美しさと共に子々孫々未来へと伝承されることでしょう。
白山の高山植物は、白山市白峰地区の西山にある「白山高山植物園」で観賞する事ができます。登山に自信のない方は、この西山の白山高山植物園をお勧めします。
さあ夏の好季となりました。高山の「山のぼり」と人生の「やまのぼり」共に未来へ受け継ぎ、ソフトランディングで生きましょう。