神道講話379号「タネを考える」
はじめに
一粒万倍日とは、一粒のモミが万倍もの稲穂に実るという、つまり一粒が1年後には一万粒に増え、2年後にはその1万倍で一億粒に、3年後には一兆粒に、4年後には一京粒に増える、つまり無限の生命力を秘めていることを表した言葉です。
まことにめでたい日ですので、よろづ事を始めるにはよい日とされ、特に仕事始め・開店・種まき・お金を出すことに良い日とされています。しかし、その日は大吉でありますが、人に借金をしたり、物を借りたりすると、後々苦労の種が増えるともされています。
雄性不稔(ゆうせいふねん)のF1種
生命の源であるタネが、いま重大な危機にさらされております。
それは、今の日本の農業はほとんどが海外から仕入れたタネで賄われていて、そのタネがF1種という交配種であるということです。
F1種というのは、異なる2系統のタネを人工的に掛け合わせて作った雑種の1代目であります。
雑種の1代目には両親の対立遺伝子の優性(顕性)形質だけが表れ、見た目が均一に揃い、生育も早まり、収量が増大するメリットがあります。
ただ、そのメリットが表れるのは1代目だけなので、農家は海外採種のF1種を毎年購入しなければなりません。
さて、そこで問題なのは、F1種の主流となっているのが雄性不稔という雄しべのない野菜であります。
ある種の遺伝子異常から生まれた突然変異の植物で、花粉のない母親の遺伝子を受け継いで、男性機能がない野菜のことであります。
雄性不稔のF1種が一粒から一万、一億、一兆、一京と無限に増やされて、世界中の人々がおしべがなくて子孫を作れない野菜ばかりを食べているわけであります。
何年か前に日本ミツバチが少なくなったという報道がなされていましたが、雄性不稔のミツが女王バチに取り込まれ続け、何らかの作用をもたらし、最後に女王バチが産んだ雄バチが無精子症になったとしたら、その巣にとっては未来がないのであります。
野口のタネの「固定種」
F1種のような人工的に掛け合わせた雑種と区別するため、各地で受け継がれてきた昔ながらのタネを「固定種」と読んでいるのは、埼玉県の野口種苗研究所であります。
この「固定種」は農家のお年寄りが代々受け継いできた自家採種のタネであります。
「固定種」のニンジンは野ネズミが囓るし、甲州トウモロコシは猿に食べられますが、F1種のスイートコーンは一口囓って吐き出してあったと聞きます。
この「固定種」と「F1種」との違いは人間には分からなくても、野生の動物たちは何かしらを感じ取っているのでしょうか。
遺伝子操作
現在封印されている特許にターミネーター・テクノロジーというもっとも恐ろしい技術があるそうです。
それは遺伝子操作によってタネの次世代以降の発芽を抑える技術で、「自殺する遺伝子」とも呼ばれ、この遺伝子が組み込まれた作物の花粉と交配した植物がタネをつけ、芽を出そうとした瞬間に毒素を出して死んでしまうというもので、EUでは遺伝子組み換えは一切お断りとなっているそうです。
むすび
花は何のために咲くのでしょうか。それは子孫を残すため、タネを産むために咲いているわけです。動物も植物も細菌までも、生命はみな同じであります。
ですから、子孫を残せない花しか咲かせられない野菜は生きている意味がなくなるのであります。
私たち1人ひとりが従来の見栄えの良い野菜ばかりをよしとするのではなく、地産地消や加賀野菜など伝統野菜を大切に、野菜本来の味を楽しむ、そういう野菜を自家採種して見ようと考える人が増えて、地域の野菜が本来の生命力を取り戻し、地域地域にその特性にあった美しい花を咲かせ、地域興しに繋がればと思います。
※本稿は、月刊「致知」及び「野口のタネ」野口種苗研究所代表野口勲氏著「タネが危ない」より多大のご教示を戴きました。特記して御礼申し上げます。
野口勲著「タネが危ない」
日本経済新聞出版社刊