白山比咩神社の「シリーズ企画 自然と生きる⑨「金沢文化の伝統を受け継ぎ、本物の漆器を届けていきたい」」を掲載しています。

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シリーズ企画 自然と生きる⑨
「金沢文化の伝統を受け継ぎ、本物の漆器を届けていきたい」
−能作(のさく)・岡能久(よしひさ)会長を訪ねて−

(令和5年1月)

当社とご縁のある中から、自然を敬い、慈しみながら、日々の生業を営む方々の姿をご紹介します。

能作(金沢市広坂)
安永9(1780)年に現在の金沢市武蔵町で漆を販売する商家として創業。店名は初代当主である能登屋作太良にちなんでいます。昭和48年、6代目の岡秀男氏のときに現在地へ移転し、その後、7代目の能久氏によって漆器店へと転換しました。金沢漆器を中心に、蒔絵など職人の高度な技が光る品を取り揃えて、漆芸文化の粋を発信し続けています。

(写真)自宅の一角で、漆器や昔の店舗で用いた道具などの展示スペースを紹介する岡能久会長。


老舗の習慣だった月参り


「私が子どもの頃、当時の武蔵町の商家では、白山さんに月参りをするのは、ごく当たり前のことだったんです」と、能作7代目当主の岡能久会長は振り返ります。亡き父親の秀男さんから引き継いで続けている「おついたちまいり」はすでに通算60年を超えました。
6代目当主の秀男さんはかつて金沢市武蔵町の商業者の代表として、地域の再開発と大型商業ビルの建設に尽力し、昭和48年の金沢スカイビルの完成に寄与しました。一方で、再開発後も地元の鎮守である武蔵住吉神社を残すように働きかけ、ビルの屋上に移された社殿は今も地域の人々の崇敬を集めています。岡会長は平成19年に秀男さんが亡くなったあと、そんな信心深かった父親の思いをつなぐために月参りを引き継ぎました。
白山比咩神社は岡会長にとっても、幼少期から毎年の初詣などで親しんでいた場所ではありましたが、月参りを続けるうちに、今ではすっかり生活の一部になったといいます。「毎月、神様にひと月を無事に過ごせたことへの感謝の思いを報告しています。行かないと気分が落ち着かないぐらいです」と欠かせない習慣になりました。
能作は再開発に伴って武蔵町から移転しましたが、月参りでは岡会長と同じように、親から参拝を引き継いだ武蔵町の老舗の主たちと顔を合わせることもしばしばで、子ども時代からの親交を温める場にもなっています。岡会長が「神仏への信仰の立派な受け皿が地元にあることはありがたい」と語る白山比咩神社の存在は、金沢の老舗が受け継ぐ商いの伝統も支えています。

(左)6代目の秀男さん(中央左)、7代目の岡会長(右端)、8代目の能之さん(中央右)の当主3代が揃った茶席(平成16年頃)。茶道は家族ぐるみで嗜んでいます。
(右)大正時代の能作の店舗。当時の建物の一部は岡会長の自宅に移築されました。


習い事で金沢文化を学ぶ


能作が主に取り扱っている金沢漆器は、加賀藩の御細工所を源流とした「殿様や姫様の道具」であり、形の精緻な美しさを追求した漆器だと岡会長は考えています。加賀蒔絵など繊細な技を受け継いだ現代の職人たちの仕事を商品として送り出すことで、藩政期から続く金沢の漆芸文化を現代に伝え残しています。

金沢が生んだ漆器の魅力を熱心に語られました。


そうした文化的な背景を持つ品物を扱うために、岡会長自身も伝統文化を習い事として修め、その普及や発展にも努めてきました。漆器と関わりの深い茶道では白山比咩神社の献茶祭など数多くの茶席に参加し、茶道をテーマにした講演なども行うほか、50歳を過ぎてから謡を再び始めたという能楽では、金沢能楽会の理事長や令和4年の春からは金沢能楽美術館の館長も任されています。
「稽古はずっと続けていますが、館長を引き受けることになって、改めて能楽の歴史を必死に勉強しましたよ」と打ち明けてくれた岡会長は、「お茶や能などの習い事は誰もが本物の文化に触れられるチャンスがある世界です。できるだけ多くの人に伝わることで、世の中にそうした文化が生き続けてほしいものです」と願っています。

(左)裏千家家元(右)を招いて開かれた白山比咩神社の献茶の儀。
(右)能楽では謡のほか、演者として舞台にも立つ岡会長。


「本物」がある店を目指して


昔からの文化を受け継ぐことを大切にしてきた岡会長の目には、地域を見守り続けてきた白山の自然は特別な存在に映るようです。「白山は雄大な自然の中にあって、そう簡単にたどり着けない環境の厳しさが、より大きな神聖さにつながってきたように思います」と分析しながら、「それでも、呼ぶときは『白山さん』と呼んでしまいますね。不思議だなあ」と笑います。気高くも親しまれる白山のあり方は、奥深い伝統文化を人々に広めようとする岡会長の活動にも通じるところがあるかもしれません。

精緻な加賀蒔絵や色漆で彩られた金沢漆器を販売しています。


社長は8代目の能之さんに譲りましたが、「能作はこれからも『本物の漆器』を扱う店であり続けます」と力強く語る岡会長が、金沢漆器に注ぐ情熱と愛情は変わることはありません。「金沢のまちに育てられた漆芸の担い手として、ほかの地域の方にも、『金沢の能作に行けば、いい漆器があるよ』と認識していただける存在になることが目標です」。武蔵町時代から続く月参りの習慣とともに、岡会長と能作は、金沢が藩政期から磨き抜いてきた工芸文化の伝統を発信し続けていくことでしょう。

(左)現在の店舗は金沢市の中心部、金沢市役所の隣に構えています。
(右)店内にはお椀や重箱から蒔絵額に至るまで多彩な商品が揃います。

記・中道大介(高桑美術印刷)