伝説その八 半分にされた魔物

昔、白山神社の西の神主さんの息子に長さんという人がいて、酒を呑んで遊びまわってばかりいました。ある年、花見で酔って寝込んでしまった長さんは、暗くなってから目を覚まし、帰り道を歩いていると、ついてくる女の人がいます。長さんが顔を見るとたいへんな美人で、「3日後ここで待っていてください」とだけ告げ、消えてしまいました。
約束の場所へ行った長さんに、女の人は「私の家においでください」と言い、山の中の一軒家に案内しました。長さんはそこでごちそうや酒をふるまわれ、そのまま泊り込んでしまいました。一方、家では家族が心配していましたが、10日ほどするとやせおとろえた長さんが帰ってきました。そして夜になると姿を消し、夜明けに帰ってくる生活を繰り返すようになりました。
ある日、「女の人のところでごちそうになっている」ともらした長さんに友人は、「それは魔物に違いない。お前は殺される」と、お守りに立派な刀をくれました。長さんはその刀をいつも身に付け、夜出かけるのを止めたおかげで体もだんだん元気になってきました。
そうして一年が経ったころ、すっかり魔物の怖さを忘れた長さんは、また女の人に会いたくなって、山の中へと出かけ、とうとう戻ってきませんでした。
父親は大変悲しみ、白山の頂上で願かけをしていると、「お前の子どもは助からないが、魔物はこらしめてくれよう」とお告げがありました。そして白山の神様は魔物を探し出して引き裂き、半分は蛇に食べさせ、半分だけ残してやりました。その後、洞穴の中で死んでいる長さんが見つかりましたが、それ以来悪さをする魔物の話は聞かなくなりました。今でも、その洞穴の入口では時々体が半分だけの魔物を見ることがあるそうです。