白山比咩神社のコラム「神道講話413号」を掲載しています。

神道講話

神道講話413号「水の神にいのる」

◆ はじめに

(※算用数字は新暦・漢数字は旧暦)

当社では6月30日に水無月の大祓(夏越大祓)を斎行しました。 そして7月1日は暦の上では「半夏生」を迎えました。
暦は現在私達の使っている太陽暦(以下新暦と記す)と太陰暦(以下旧暦と記す)があります。 季節を表わす二十四節気を始めて、節句や雑節などは全て太陰暦をいいます。
本年は閏月が加えられ四月が二回ありました。従って新暦7月は旧暦五月十一日から六月十一日迄、新暦8月は旧暦六月十二日から七月十三日迄であります。
つまり水無月の晦日は8月18日となるのであります。よって当社のように新暦6月30日に大祓を斎行するところと、旧暦六月三十日に大祓を斎行するところ、又はひと月遅れの新暦7月30日に斎行される神社があります。
いずれも大祓にふさわしい季節であります。

小暑 7月7日 (五月十七日)
土用 7月19日 (五月二十九日)
大暑 7月22日 (六月二日)
立秋 8月7日 (六月十八日)

夏越の大祓 茅の輪

◆ 水無月とは

6月は梅雨から猛暑へと続く時季です。生命にとり脅威でもあるこの時季、月末の夏越の祓で邪気・病気を払い、生育成長を促す祭事が行われます。
月始は、梅雨時で田植えが行われ、水田の早苗は風に揺れ、平野一面が湖のように水面の波形は夕陽をうけて耀き、やがて日が暮れると田毎の月が美しく水面を照しています。 つまり水が無いのではなく、水が有るのであります。では何故「水無月」と云うのでしょうか。
それは「な」は「ない」の意に意識されて「無」の字があてられたのですが、本来は「の」の意味で、「水の月」として「田に水を引く必要のある月」の意とされ、陰暦六月の異称であります。
ちなみに和菓子の「水無月」とは、ういろう餅に小豆を散らしたようなもので、古く旧暦六月一日に氷を食べる風習があり、その氷の形に作ったことから「水無月」といわれているとのことです。

水をはった水田

◆ 水神信仰

水を主宰する神の信仰又は水そのものの神聖性に対する信仰を「水神信仰」と云い、古典には弥都波能売神(みずはのめのかみ)(古事記)罔象女神(みずはのめのかみ)(日本書紀)となっています。
そしてまた、雨を降らせるお役目の鳴雷神(なるいかずちのかみ)や、伏流水などを司る御井神(みいのかみ)等も水の神様であります。
水はその清純性が汚穢を祓うために、祭祀にあたって「潔斎」に欠くことができなかった反面、疫病や災害が水によってもたらされることから水への恐怖心も生まれました。
又水の豊饒性は人間の繁殖性とも結びつき、水神は女神であり、河童のように小さな子供が水界に多くあるところから母子神の信仰をも伝え、安産や子宝祈願の対象ともなりました。
別に民間では水神を蛇・龍や鰻などの魚・河童などとするなど、多様な信仰を伝えています。 白山麓では各家々の土蔵の屋根の棟木の下に水とか龍、あるいは鏝絵で亀や鯉・大黒などが描かれています。 これは建造物を火災から護るあるいは繁栄の意味として今でも描かれています。

鏝絵 大黒

鏝絵 龍

◆ 水の力

霊峰白山は分水嶺でありますので白山の神は「水分神(みくまりのかみ)」とも申せます。
白山から流れ出る水は石川県の手取川、福井県の九頭竜川、富山県の庄川はそれぞれ日本海に注ぎ、岐阜県の長良川は太平洋に流れています。 そして飲料水、農業用水、水力発電・工業用水、あるいは、放射能除染などに利用され、私たちの生活の中では朝起きてまず洗顔、歯みがき、うがい、手洗いに始まり・みそぎ、入浴・トイレの洗浄等、また動物・植物など生きとし生ける物、全てが水の霊力によって生かされて生きているのであります。
8月18日は旧暦六月の晦日です新暦6月晦日に夏越(水無月)の大祓を行なわなかった方々は、自分で形代を作りお名前年齢(数え年)を記載し、身体をぬぐい、息を吹きかけ近くの河川に流棄しましょう。
(神社にお持ち戴いても結構です。神社でお祓いし、流棄します。)

◆ むすび

日本人は「自然」を畏怖、畏敬し常に意識して生活して来ました。
疫病が流行すると疫神を祀り、厄祓いをします。ウイルスを撲滅するという言い方は日本人にはそぐわない、むしろウイルスを認め免疫力によって共存していかなければならないのであります。
心身を浄め、窓を大きく開け薫る風を室内に入れ、できれば外に出て大きく背伸びをし、陽光を浴び、深呼吸をすると心の免疫力は間違いなく高まります。
そして神々に手を合わせ「穢れ」「気枯れ」を祓い「元気」「精気」を戴き、清々しい気持ちで苦境を乗り切りましょう。

水の神執筆にあたり、島根県浜田市長安八幡宮(ながやすはちまんぐう)宮司九十六翁 寺本博様より多大なご教示を賜りました。 紙面をかりて御礼申し上げます。ありがとうございました。