白山比咩神社のコラム「神道講話385号」を掲載しています。

神道講話

神道講話385号「神社とお米」

はじめに

神社神道では、天孫邇邇芸命(ににぎのみこと)が高天原からこの国土に天降られるに際し、天照大神から賜った三大神勅の一つに「斎庭(ゆにわ)の稲穂の神勅」があります。
この斎庭の稲穂の神勅とは、日本書紀に「吾が高天原にきこしめす斎庭の稲穂を以て、また吾が児にまかせまつるべし」と書かれてあり、この稲穂とは単なる稲穂ではなく、大嘗の斎庭に於いてきこしめされた稲穂であり、この稲穂を以て皇祖の大神に捧げ奉るという精神に基づいて、新嘗祭が執り行われてきているのであります。
豊に生い茂るあの端々しい聖なる国は、これわが子孫が代々治めるべき地である。我が子よ行って治めなさい。お前たちのその王たる御位は、天地と共に永遠に栄える事でありましょう。

掛軸「三大神勅 天壌無窮の神勅」林銑十郎謹書

神饌

神様に供する飲食の総称を「神饌」といい、祭(まつり)は神様への饗応の形をとっているため、神饌を奉ることは、その中心となる大切な行事であります。 神饌には海・川・山・野の産物を数多く奉るのが習わしでありました。それも清浄で新鮮な物が尊ばれます。
神饌の種類は、調理法や献り方から分類すると、

(一) 調理法より ①熟饌または調理饌 ②生饌または丸物(まるのままで奉るもの・通常神饌) ③生贄(鳥・魚など生きたまま奉るもの)などがあり、
(二) 献る作法から ①案上に奉るもの ②懸けて奉るもの ③まき散らして奉るもの ④地中に埋納するもの ⑤水中に投げて奉るものなどがあります。

神饌の品目として第1に上げられるものが稲米であります。

  1. 稲=和稲・荒稲・頴(かい)・懸税(かけじから)など。
  2. 米=白米・玄米・糯米・洗米・染米など。
  3. 飯=白飯・赤飯・強飯・小豆飯・粟飯など。
  4. 粥=米の粥・小豆粥・七種粥・粟粥・稗粥など。

そして、第2番目が酒類で、3番目が餅類と続きます。初物は、まず神様に供えるという習俗は古くからありました。
延喜式践祚大嘗祭の条に、先づ初抜四束を割き取りて[四把を束と為せ。]供御の飯に擬せ・・・とあって、初穂を神様に奉るのであります。 また江戸のことわざにも「初物を食べると75日寿命がのびるというのがありますが、まず神様にお供えし、そのお下がりを家族全員で、その霊性を頂戴するのが「直会(なおらい)」であります。

談山神社嘉吉祭 特殊神饌「染米」

おこめとごはん

「こめ」とは、稲のもみがらを除いた種のことで、そのもみがらを取り去っただけのものを玄米と言い、玄米をついて精白したものを白米または精米と言います。
さらに「うるち」は炊いて飯とし、「もちごめ」は蒸して餅を作ります。
最近、若い人々が食事の時に「コメ」を食べると言う人が多くなってきており、放送番組でも司会者や出演者が食べ物の会話の中で「コメ」を食べるという言葉を聞くたびに、この人々は煮炊きした「ごはん」を食べていないのではと不思議に思います。私共ある程度の大人は、昔から「ごはん」を食べると言っておりました。
「コメ」とは、まさに調理をしない玄米や白米のことで、米や麦を炊いて調理したものを「めし」と言い、めしの丁寧語を「御飯」と言います。 また、冷たくなった「めし」を暖めるための器を御飯蒸しとも言います。
その昔は、この「ごはん」を干したものを「乾飯(ほしいい)」と言い、飯を乾かして蓄えて旅行用の食糧としたものでした。
それと同じ製法のものが、今では災害時の非常食として再び脚光を浴びてきました。
関西地方では、食堂の店先に、大きな文字で「めし」とか「めしや」の提灯が掲げてありますが、これは手軽な飲食店という意味があります。

非常食アルファ米「乾飯」

むすび

古くより日本の国のことを瑞穂の国と言いますが、古事記では「豊葦原の千秋長五百秋の水穂国」とあり、日本書紀では「瑞穂之地」、万葉集では「美豆保国」と出てきます。
瑞穂の国とは、日本の国を美しく称えてみずみずしい稲穂の国ということです。
ちなみにアメリカの国を「米国」と記したのは、誰なのかわかりませんが、日本人は主食の「お米」を大切に、そして、外国の人々とも仲良くお付き合いしたいものです。

稲刈り風景