白山比咩神社のコラム「神道講話374号」を掲載しています。

神道講話

神道講話374号「加倍奉還(かばいほうかん)」

神の恵みと祖先の恩とに感謝し、
明き清き誠を以て祭祀にいそしむこと


はじめに

右は敬神生活の綱領の一節でありますが、私たちは春には祈年祭(としごいのまつり)として一年の安全と豊かな稔りが得られますようにと祈りを捧げます。
自然は時には大きな災いとなって人々に試練を与えながら大きな、そして豊かな恵みを授けてくれます。
秋にはその恵みに感謝の真心を添えて、秋祭りや新嘗祭を斎行し、神賑行事をおこなうのであります。
それは「命」の大切さ、「まつり」のありがたさの表れであり、正に「戴いたらお返しをする」のは神恩感謝というものであります。
私たちは、親を亡くしたときに改めて親のありがたさを感じ、あの時あれを聞いておけば良かった、あの時こうしてあげれば良かった、など回顧しても遅いのであります。
今、生きている間に親への恩返し祖先への恩返しを考えてみてはいかがでしょうか。
人生儀礼の中で、昔は「不幸の半返し・幸せの倍返し」ということが行われてきました。たとえば葬儀の際やお見舞などのお返しは半返しであり、結婚式などのお祝い事は倍返しなどですが、今ではお互い様として半返しが通例となってきた様です。

表参道にて開催された「うらら白山人どんじゃら市」

人に話せば悲しみや苦しみは半減し、喜びや楽しさは倍になると言う様なことは結婚式などの祝辞でよく言われていることであります。
最近のテレビ放送で流行語大賞にも選ばれた「やられたらやりかえす、倍返し」は果たしてそうでしょうか。
恨みや憎しみの倍返しでは決して幸せにはなれません。
昔あった時代劇の仇討ちや仕返しは際限が無く、最後まで争いはなくなりません。
なくなるどころか憎しみは倍増し、したがって仇討ち禁止令が出されたのであります。
結局テレビドラマでは両成敗となったのであります。
このドラマの「倍返し」を台湾では「加倍奉還」と書き、西洋の「目には目を、刃には刃を」の通り、仕返しの意味で使っていますが、それは、はたして儒教などの教えはそうなのでしょうか。

結婚式 結盃の儀

おわりに

「受けた恩は石に刻み、掛けた情けは水に流せ」ということばがあります。
自分が他の人から受けた恩は決して忘れることがないように、そして他の人に掛けた情けは見返りを求めるのではなく、心からの愛情をもって施すということであります。全国で自然災害に遭われた方々に心からの、そして出来る限りの支援の手をさしのべ、苦しみを分けあい、思い合う心で過ごしましょう。
自然の恵みを常に戴いて生かされて生きている私たちは自然の神様に今生きている幸せを倍にしてお返しする「幸せの倍返し」がより心の幸せを招くと信じます。「加倍奉還」とは幸せを倍にしてお返し奉まつると解し、この新しい年も一日一日を大切に生きたいものです。

白山山頂でのお日の出