白山比咩神社のコラム「神道講話362号」を掲載しています。

神道講話

神道講話362号「畏怖の水・感謝の水」

はじめに

「21世紀は水の世紀」と先代山ア宮司は社報で申しておりました。 昨年は正に水の恐ろしさと有り難さの双方とも感じさせられた年であった様に思います。 3月11日の東日本大震災による津波の破壊力、放射線による大気の汚染と水の汚染、9月4日の紀伊半島を襲った台風による河川の氾濫等々。 津波については「日本三代実録」に貞観の大震災として津波の被害が記されていた訳でありますが、千年に一度の災いは“万が一”という読みの甘さを露呈してしまったように思われます。 また、各地の河川の氾濫は、戦後の植林が針葉樹だったために、山に保水力が無くなり土砂災害に繋がったといわれております。

水の除染

放射線の被曝については67年前、広島と長崎で放射線によって苦しめられた日本が再び原子力発電所の事故により被曝し、苦しめられているのは何とも悲しい極であります。 この事故により核燃料の温度を下げ、溶融を防ぐために、注がれたのが水であります。 また、汚染された植物や建物などを除染するために使われたのも水でありました。 被災地では、泥水や放射線による水汚染がひどく、子供、特に乳幼児には、ミルクも作れないなど飲料水にも事欠き、全国からペットボトルの水が送られたものでした。

自然の水

霊峰白山と百四丈の滝

地球は水の惑星といわれ、量にして東京ドーム1兆1000億杯分。そのほとんどは海水であり、直接採水できる河川と湖沼は全体の0.01%ということであります。 そんな中にあって日本は、世界的にも雨の多い国で、その降った雨は山々や岩盤、地下などに浸透し長い年月をかけて地表に湧き出してくるのであります。 山々や大地は自然の濾過装置ともいえ、ここを通ることで不純物が取り除かれてきれいな水になるのであり、山紫水明の国日本では、台風と梅雨、雪解け水が大地に染み込み、ミネラル豊富な水が作られます。 昨年9月に認定された白山手取川ジオパークのテーマは「山−川−海そして雪 いのちを育む水の旅」とし、大地と自然と生活の物語…キーワードは「水」としています。 そして日本の水は、ほとんどが軟水であり、口当たりがやわらかく軽い。 日本を流れるきれいな水、日本で飲めるおいしい水は日本の誇りであります。 普段、当たり前に受けている自然からの恵み「水」は、そのまま飲める湧き水や、井戸水など、国内各地のミネラルウォーターを手軽に楽しめる恵まれた環境の水資源をもつ国なのであります。

限りある水資源

白山手取川ジオパーク構想

しかし、日本の現実は、山も悲鳴を上げています。異常気象や鹿・猿・猪が下草を食べ、雨が地下に染み込まず、植林後の手入れ不足、間伐など、林業関係者の不足により各地で鉄砲水が起こり土砂が地形を変えています。 そうしたなか昨年は、国際森林年と位置づけ、里海・里山が提唱され、森林を守る運動が展開されておりましたが、その大なる森林も、日本各地で中国に買い占められています。今のままでは世界中、水の争奪戦が始まるのではないかと心配されます。

おわりに

昭和60年に「きれいな水を大切に守り続ける」という意識を高め、良好な水環境を保つために環境庁は「名水百選」を選定しました。 そして自然の中のきれいな水に癒を求め、多くの人々が「名水めぐり」を楽しむようになり、改めて平成20年、水の大切さを再認識してもらおうと新たに「平成の名水百選」が選ばれ全国で200の名水が選定されたのであります。 毎日の暮らしの中で何かしら水を飲むと、体も心もほっとします。豊かな自然がつくる日本の水に感謝し、全国各地に湧き出す水を心から大切にしたいものです。