白山比咩神社のコラム「神道講話361号」を掲載しています。

神道講話

神道講話361号「生きる」

はじめに

つながる命 つなげたい命

私達の生命はどこからきたのでしょう。人には2人の親があり、その両親にはそれぞれの親がいるので4人、この4人の方々はお爺ちゃん・お婆ちゃん(祖父母)になるわけで、そのまた親はひいお爺ちゃん・ひいお婆ちゃん(曾祖父母)として8人いらっしゃいます。
私たちは、祖父母4人の名前ぐらいまでしか思い出せません。まして曽祖父母8人の名前をすぐに言える人というのは希なのではないでしょうか。そうなると3代ぐらいから上は、まとめてご先祖さまということになります。

氏神(うじがみ)さま

今上陛下は第125代ですが、仮にご先祖を25代まで遡って数えると、33,554,432人の親が存在することになります。ということは逆に言うと、日本は大和民族国家ですからご皇室から分かれた源・平・藤・橘などと言われた大氏族の流れを汲んだ、つまり血の繋がりをもって生まれ出た私達はその大和民族の大家族の一員となるわけであります。
大氏族が氏神まつりをする。要するに氏神さまというのは先祖まつりをする神社ということであります。

産土(うぶすな)さま

日本の神さまは八百万神と言われていますから一見多神教のように見えますが、八百万神が帰一する、天照大神という象徴の神様を戴いていますから、御神徳の共通性というものがあり、各々の神様は、分けもって居られる独特の御神徳を発揮されると同時に共通の祈りに対しても大御稜威(おおみいつ)を表されるのであります。
それでは、私達は何によって生かされて生きているのかという、その生かして下さる本体、すなわち宇宙の大自然のもつ力そのものを神として、その神々に対して感謝の誠を捧げるためにおまつりをするというのが産土の神社なのであります。

いたわりのお言葉

霊峰白山から流れる命の水(加賀市)

この度の東日本大震災では、多くの人々が心の傷を負ってしまいましたが、天皇陛下より「この大災害を生き抜き、被災者としての自らを励ましつつ、これからの日々を生きようとしている人々の雄々しさに深く胸を打たれます」「皆が相携え、いたわり合って、この不幸な時期を乗り越えることを衷心より願っています」「被災した人々が決して希望を捨てることなく、身体を大切に明日からの日々を生き抜いてくれるよう、また国民一人ひとりが被災した各地域の上にこれからも長く心を寄せ、被災者と共にそれぞれの地域の復興の道のりを見守り続けていくことを心より願っています」との力強い心暖まるお言葉を頂戴致しました。

感謝の心

太陽の光、空気の恵み、水の恵み、大地の恵み、食物の恵みなど、生命を生かして下さる蔭の力を「お蔭さま」と言います。
食物とは一体何なのでしょうか。動植物の違いはあっても、皆生物には違いありません。その生物は例外なしに大生命の生成化育の一端を担って生き抜いている姿であります。 その生命を犠牲にして、私達の生命に振り替えることによって私達人間の生命を延ばし栄えさせていることを考えれば、食物に対して感謝するという心が湧いてくると思います。
食物を作るには大地が必要で、その大地は神道では神様が生んで下さったものと考え、地祇(ちぎ)といって神格化しているのです。 この大地の恵みが無ければ人間も他の動植物も生きてはいけないのであり、神さまの恵みが人を通して繋がっていくのであります。

おわりに

神さまからの繋がりを親から子供へと命を戴いて生きているこの只今を神道では「中今(なかいま)」といいます。過去から未来へつながる現代、私達は中今に生きているのであります。
自分にとって「生きる」ということは生命体として生きていることを意味しますが、もう一つ「生きる」ということには違った意味があります。 それは、自分を取り巻く全ての人に存在を認められるということであります。
つまり親や、子供や、友人や知人が、自分を思い出してくれたならば、それはその人の心の中に「生きている」ということであります。他の人々に心を傾け、思いやりの心を持って、いたわりの心で、手に手をとって、助け合いながら生きたいものです。